ともの語り場

ガイナーレ鳥取の戦術分析を書き綴るノートです

2018明治安田生命J3リーグ第27節 ガイナーレ鳥取vs鹿児島ユナイテッドFC【原点への立ち返り】

はじめに

 前節はJ2昇格戦線への生き残りをかけた試合で痛恨の敗戦を喫し、立て直しと勝利が絶対条件のガイナーレ鳥取。対して、ここ3節は勝利がなく鳥取同様に勝利が求められるのは鹿児島ユナイテッドFC。両者の直接対決となった一戦を解説する。両チームのスタメンおよびフォーメーションを図1に示す。

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図1 両チームのスタメンおよびフォーメーション

 

 原点への立ち返り

 鳥取はキックオフ直後から積極的なプレッシングを敢行する。“攻撃的なプレッシングで相手に自由を与えず、ボール奪取後は時間をかけずにゴールへ迫る”という今季の当初から継続していた方針で、須藤監督の就任後は益々色濃く進化を遂げた原点のプレーモデルが明確に表現されていた。この日は最終ラインから丁寧に繋いでボールの前進を試みる鹿児島のビルドアップに対し、最後方に位置するGKのアンまでプレッシングを実行し鹿児島の攻撃を丸ごと機能不全に陥らせようという鳥取の意図があった。具体的なプレッシングの構造を図2に示す。

 

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図2 プレッシングの構造

 開始早々、鹿児島ボールのゴールキック。観音開きからビルドアップを開始した鹿児島に対し、鳥取は[5-2-3]のフォーメーションでフェルナンジーニョ、レオナルド、ヴィチーニョのブラジル人トリオを先頭に最終ラインへ圧力をかける。CFのレオナルドは最終ラインでボールを保持する平出に対して中央へのパスコースを封鎖。ヴィチーニョは牛之濱と萱沼の両方に対応可能な中間ポジションを取る。直後のGKアンへのパスに対してもレオナルドを中心にプレッシングを継続。シャドーのフェルナンジーニョとヴィチーニョは直前の局面と同様に中間ポジションを取り、中盤以降では各ポジションの選手にマンマークで対応する。パスコースを限定されたアンはロングフィードで前線へ送るが、上松が冷静に対応。直後にヴィチーニョが持ち上がり、鹿児島ゴールへ一気に迫る。また、ボールを失った直後も複数の選手でボール保持者を囲い込み、鹿児島のロングカウンターを許さない。

 以後、鳥取は再現性を持った前線からのプレッシングで鹿児島を押し込み続けた。3分には図2と同一の局面から、アン→田中へのパスをフェルナンジーニョインターセプト。最後はフェルナンジーニョのクロスからファーサイドに詰めていたヴィチーニョが押し込む。J2昇格争いの直接対決となる重要な一戦で幸先良く先制点を挙げた。

 

非対称なサイド攻撃

 対する鹿児島は、基本の[4-4-2]とSHが一列内側に絞った[4-2-2-2]のフォーメーションを併用しながら攻撃を開始する。鳥取の[5-2-3]との噛み合わせ上、鹿児島のSBおよびSHと鳥取のWBが対当するため左右の大外レーンでは数的優位が保障される。したがって、鹿児島は大外での数的優位を利用した攻撃を展開した。左サイドでは、図3に示すように、萱沼と牛之濱が縦の関係で数的優位を生かした突破を狙う形をメインとした。

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図3 左サイドの突破

 中央でボールを確保した後、萱沼がボールを持ち上がる。一旦隣のレーンの中原に預けて中原→吉井→中原の経路でハーフスペースと中央を経由し、鳥取の陣形を中央寄りに誘導。鳥取の守備陣形のスライドが完了したところで再度萱沼にボールを渡し、牛之濱が前方でピン留めしていた上松をターゲットに大外で数的優位の局面を創り出す。右サイドの野嶽と比較すると大外へ開いていたことの方が多かった牛之濱だが、トランジションに優れる上松を可能な限り最終ラインに貼り付け、攻撃参加を食い止める意図が伺える。

 一方で右サイドでは野嶽が一列絞り、ビルドアップの出口の確保と魚里の裏に広がるスペースへ走りこむ形をメインとした。右サイドへの展開例を図4に示す。

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図4 右サイドへの展開

 中央でのボール奪取後、パスを受けた萱沼が鹿児島から見た左サイドでボールを運び、鳥取の守備陣形を一方のサイドへ誘導する。鳥取が陣形をスライドさせたところで、吉井→中原を経由しハーフスペースに絞った野嶽へ。魚里のアプローチに対しては大外の田中へ渡し、ワンツーの形でWB裏のスペースに侵入する。ハーフスペースに絞った野嶽を経由し、田中と協力して魚里の突破を試みる同様の展開が何度か見られたため、鹿児島が意図した狙いの一つであったのは間違いないだろう。

 それと同時に、鳥取目線で見ると、ボールと逆サイドのボランチ脇に広がるスペースの管理方法が修正されていることが確認できる。鳥取は前節のG大23戦においてこのボランチ脇のスペース管理の方法が曖昧で守勢に回ってしまった反省を生かした様相だ。特にミドルサードにおいてボールがサイドにある場合はボランチの可児、仙石がボールサイドへスライドし、逆サイドのボランチ脇のスペースへ相手選手がポジションを取った場合は同サイドのWBが対応する方式に変更。図4の局面では魚里のアプローチが遅れたため突破を許すも、得点シーンの図5では牛之濱へ果敢にアタックした魚里がボール奪取に成功し、カウンターの起点となった。これにより、鹿児島はハーフスペースを思い通りに利用できず、大外へ押し返される展開を余儀なくされる。

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図5 4得点目直前のボール奪取

 

鹿児島の積極性と鳥取の返答

 前半だけで4失点を喫した鹿児島だが、ここで諦めるわけにはいかない。昇格争いには勝ち点の他に得失点差も関わる場合があるからだ。多少リスクが生じることを覚悟の上、ひとつでも多くの得点を奪い返しに行くことを選択する。後半開始と同時に甲斐へアタック。アフター気味で危険なプレーだったが、決意が伝わるプレーでもあった。しかし、鳥取は鹿児島のプレッシングを難なく回避する。一つ目は、図6に示す当試合分析では既にお馴染みとなった甲斐のロングフィードを活用する方法である。

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図6 甲斐の飛び道具とプレッシング回避

 自陣に引きこもれば時間が経過するのを待つだけなので、比較的高いラインを維持しながら鳥取の最終ラインへ圧力をかける。しかし、中央の甲斐に渡った段階で右サイドに片寄せするアイソレーションの陣形が完成しており、すかさず左サイドで待ち受ける魚里へ正確なロングフィード。左サイドで魚里の質的優位性を生かした突破を目指す。これにより、鹿児島は重心を下げざるを得ない状況を強いられる。

 それでも鹿児島は最後まで前線へのプレッシングを敢行。鳥取が作り直しのために後方へ下げる素振りを見せた瞬間を合図に鳥取の選手へ襲い掛かる。ここで鳥取は、2つ目の方法として繋ぎながらのプレッシング回避を披露する。図7に示す局面では鹿児島の圧力に対して右の大外からフリーな味方へ冷静に繋いでいく。

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図7 繋ぎながらのプレッシング回避

 時折1人のボール保持者に対して鹿児島の2選手を引き付けてフリーの味方を創り出し、十分なスペースを確保できたところで前線へのロングフィードを実行。この局面で得たスローインの流れから、GKアンのクリアミスを魚里がインターセプト。最後はレオナルドが力強いミドルシュートをねじ込み、完全に試合を決定付けた。

 

雑感

 鳥取は「我々らしいサッカーというのはアグレッシブに点を取りに行くサッカーだと、試合前のミーティングで選手たちと共有して入りました」という須藤監督の言葉通り原点に立ち返る展開となった試合。空中戦と地上戦を使い分けながら相手をいなす姿は前節の反省点が存分に生かされた場面で、プレーモデルの再確認、修正を1週間で準備し有言実行できたのは今後への自信に繋がるだろう。

 鹿児島は鳥取のプレッシングが弱まった後半はボールを保持する時間帯が増えたが、追加点を奪えず課題の多く残った試合。プレッシングへの耐性がないことが露呈した事実は、次節以降の対戦相手のヒントとなりえそうだ。

 次はJ3リーグ首位に立つ琉球をホームに迎え入れての決戦。鳥取は今節で表現できたプレースタイルを強敵相手にどこまで披露できるのであろうか。

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