ともの語り場

ガイナーレ鳥取の戦術分析を書き綴るノートです

2018明治安田生命J3リーグ第28節 ガイナーレ鳥取vsFC琉球【意地と貫禄】

はじめに

 前節は昇格争いの直接対決で5得点の完勝。首位相手にも勝って逆転昇格を狙いたいガイナーレ鳥取。対して、第24節から4連勝。圧倒的なチーム力でJ3リーグの優勝がちらつき始めたFC琉球鳥取が勝って弾みをつけるのか、はたまた首位の琉球が貫禄を見せつけるのか。両者の直接対決となった一戦を解説する。両チームのスタメンおよびフォーメーションを図1に示す。

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図1 両チームのスタメンおよびフォーメーション


琉球の狙い

 琉球は、鳥取対策は用意周到と言わんばかりの攻撃を展開する。守備時に[5-2-3]の陣形を敷く鳥取に対し、琉球はいつも通りにインサイドハーフ(IH)の中川と枝本を左右のハーフスペースに配置した[4-1-4-1]を採用する。利点としては、陣形の組み合わせの関係上、アンカーの小松が鳥取ブラジル人トリオの背後の中間地点にポジショニングでき、かつボランチの可児と仙石の脇のスペースに中川と枝本を配置できる点にある。これにより中央3つのレーンで選手がフリーな状態となり、適切なポジショニングによる位置的優位が築ける。

 実際の試合では小松が中央で浮いたポジショニングを取り、隣のレーンの斜め前方で待ち構えるフリーな状態の中川と枝本に渡して展開する形が多く確認できた。図2に示す23分のカウンター気味の攻撃においても、小松→中川を経由し奥田を食いつかせてWB裏へ即座に展開するなど、前節の鹿児島戦同様の形が見られた。

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図2 位置的優位を生かした展開

 また、ボールが大外レーンにある場合はSHとIHが鳥取最終ラインの背後のスペースを狙いつつ、マンマークで対応するボランチやCBをサイド深くに誘導。これにより人数の不足した中央のスペースへ展開する。この場合、鳥取は最終ラインの選手が迎撃して対応する形を取っていたが、少しでも判断が遅れるとフリーな状態でプレーされる危険性があるため選手個々の危機察知能力が試される守り方でもある。図3に示す局面は正に上記で説明した通りの展開となった。和田と富所が西山と上松を最終ラインにピン留めし、飛び出せる選手を限定することで対応を遅らせ、中央のスペースで自由にプレーできる時間を確保している。

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図3 大外へのボランチの誘導と、中央スペースの利用

 

鳥取の狙い

 対する鳥取も負けじと琉球の守備網をかいくぐる。琉球の[4-1-4-1]において空白地帯となりやすいアンカー脇を狙い所とした。シャドーのフェルナンジーニョとヴィチーニョを小松の脇に配置し位置的優位を築く。それに加えて、フェルナンジーニョとヴィチーニョは個の力で突破できる質的優位性も備えているため、琉球にとってはかなりの脅威である。

 図4の局面では、スローインの流れからMFラインを突破した奥田が小松の脇で待ち構えるフェルナンジーニョへパス。直後にフェルナンジーニョが仕掛ける素振りを見せつつ琉球のDFを同サイドに引き寄せ、逆サイドに広がるスペースへ大きく展開。アイソレーションの形から右サイドでの突破を図った。

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図4 アンカー脇の侵入から逆サイドへ展開

 また、図5の局面では、仙石から大外の上松を経由してアンカー脇にポジションを取るフェルナンジーニョへボールが渡った。ここでも個による突破をチラつかせながらアンカーの小松に狙いを定めてドリブルアットの形を作る。フェルナンジーニョの侵入を阻止しようとした小松が接近してきた瞬間を狙い、逆サイドのアンカー脇に位置していたヴィチーニョへ展開した。鳥取としては、ビルドアップの段階から小松の両脇を狙い所とし、フェルナンジーニョとヴィチーニョの両選手へいかにフリーな良い状況でボールを預けられるかが鍵を握った。

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図5 右アンカー脇→左アンカー脇から逆サイドへ展開

 

プレッシングの逆用

 後半に入り、琉球鳥取が得意としている前線からの攻撃的なプレッシングを逆用する。前半でも見せた図2に示すような展開で大外深くまでボールを運んだ後、一旦最終ラインまでボールを下げることにより鳥取のプレッシングを誘う。鳥取の陣形を間延びさせ、広がった中盤のスペースを活用する狙いだ。

 図6に示す50分の場面では、高い位置を取ったSB徳元から富所を経由してCB瀧澤までボールを下げる。後ろの状況を気にすることなくプレッシングを敢行するヴィチーニョを前方へ誘導。それを皮切りに間延びした中盤のスペースでフリーな選手を見つけながら逆サイドの西本へ一気に展開した。ここで、ボランチ脇にポジショニングする相手選手にはWBが対応する決まりとなっている鳥取だが、少しでも対応が遅れると図2や図6のようにWBの後方へ広がるスペースを利用されてしまう。このリスクを恐れて鳥取は重心を下げざるを得なくなり、以降は琉球にボールを支配される時間帯が増えていく。

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図6 鳥取のプレッシングを逆用したアイソレーション

 

前残りの理由と反撃

  チームの重心が下がり押し込まれる苦しい展開に持ち込まれるが、鳥取は最も得意とするロングカウンターを時折発動して反撃に出る。守備時に[5-2-3]というフェルナンジーニョ、レオナルド、ヴィチーニョを前残りさせるハイリスクハイリターンの布陣を採用するのは、ロングカウンターの威力増大化が最たる理由である。琉球としては攻撃時にSBが高い位置を取るため背後のスペースが空きやすくカウンターの狙い所となりやすい。だが、技術やスピード的な優位性を生かしてほとんどの局面でフィニッシュまで持ち込むため、鳥取は少ないカウンター機会を逃さないことが重要である。

 図7に示す58分の局面では、ボール奪取から素早く縦ラインの可児、仙石を経由し、前残りをしていたレオナルドを起点としてDFラインの裏へフィード。抜け出したヴィチーニョのロングシュートは惜しくも枠を外れたが、今季を象徴する迫力あるロングカウンターを披露した。

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図7 鳥取のロングカウンター

 

フォーメーション変更と最後の賭け

  鳥取は加藤と内山を立て続けに投入し、4バックの布陣へ変更。図8に示すように普段から攻め上がりを得意とする井上黎と甲斐を左右のSBに置き、前線に加藤も配置することで攻撃に厚みを持たせる。また守備面では、終始狙われ続けていた危険なエリアを、加藤が素早いネガティブトランジション(ネガトラ:攻→守の切り替え)で埋めることを徹底。途中出場による体力の利を生かし、攻守両面のタスクを担う。

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図8 SBの攻め上がりと加藤が担うタスク

 鳥取は勝ち点1ではなく、あくまでも昇格圏を目指すために必要な勝ち点3を狙い続けた。試合時間が残り10分を切ったところで甲斐がFWの位置にポジションを上げ、パワープレー気味の賭けに出る。しかし、琉球は甲斐のオーバーラップによる後方の人数不足で再び顔を覗かせたボランチ脇のエリアを見逃さない。当然このエリアから侵入され、最後は無情にもミドルシュートがネットに突き刺さる。勝ち越しを狙うためにバランスを保った[4-4-2]からフォーメーションを崩した直後に失点。悔しい敗戦となった。

 

雑感

「うまく相手にギャップを取られていたかなというのがありました。」

 須藤監督の言葉からもフォーメーションの噛み合わせによる位置的不利に悩まされたことが垣間見える。後半にはフォーメーションを変更し、立て直しをかけたが勝ち越すまでには至らなかった。しかしながら、首位琉球相手にもロングカウンターの片鱗を見せ、今季積み上げてきたサッカーで意地を見せたことに変わりはない。

 琉球はAT弾2発による逆転勝ちでJ3の優勝とJ2昇格が現実的に。首位の貫禄を見せつけ、残り試合に弾みをつける試合となった。

 次はアウェイの福島に乗り込んでの一戦。鳥取より下位に位置する福島だが、決して侮れない相手である。鳥取は再度気を引き締め、残り試合は全て決勝トーナメントのつもりで挑戦できれば光が差し込んでくるに違いない。

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