ともの語り場

ガイナーレ鳥取の戦術分析を書き綴るノートです

2018明治安田生命J3リーグ第30節 ガイナーレ鳥取vsギラヴァンツ北九州【浮き彫りとなった現実】

はじめに

 前節の福島戦での逆転勝利により再びJ2昇格圏を視界に捕らえたガイナーレ鳥取は、試合前の時点で勝ち点42の6位。J2昇格圏の2位鹿児島との勝ち点差は6で、鳥取は鹿児島に対して試合数が1試合少ないことから勝ち続けてプレッシャーを与え続けることができるか。

 一方で、J2昇格を目標に設定するも勝ち点25の最下位と厳しい現実に立たされているギラヴァンツ北九州。前節は7試合ぶりに勝利し、今節はタヴィが2試合ぶり、ルーキーのGK中山が7試合ぶりのスタメン入りと明るいニュースで再浮上のきっかけを掴めるか。

 今季の明暗がくっきり分かれた両者の一戦を解説する。両チームのスタメンおよびフォーメーションを図1に示す。

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図1 両チームのスタメンおよびフォーメーション

 

北九州の狙い

 北九州はマンツーマンDFの色合いが濃い鳥取の守備方法を上手く利用し、序盤から降りる動きと裏抜けの動きの併用で鳥取の右サイドを狙った。

 

 具体的には、図2に示すように鳥取の守備陣形[5-2-3]の1列目と2列目間の空間にボランチを配置し、攻撃の起点とする。前線では2トップの佐藤とダヴィが内山や井上黎と対等。また、左SHの井上翔がハーフスペースに絞り甲斐からのマークを意図的に受ける。この状態でボランチの内藤へボールが入ると井上翔は降りる動きで甲斐を1列前へ誘導する、と同時に佐藤が背後のスペースへ裏抜けしDFラインの背後を狙う。この時、足の速い甲斐をゴール前から遠ざけ、速さで劣る内山をターゲットにしている部分が嫌らしいが、理にかなっている。北九州はこの戦い方を続け、序盤の主導権を握った。

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図2 降りる動きと裏抜けの動き

 対する鳥取は、北九州の前線からのプレッシングが弱まる瞬間を狙う。図3に示すように鳥取の3バックや時にはボランチから高いDFラインの背後にロングフィードし北九州の圧力を無力化。スペースにレオナルド、フェルナンジーニョ、ヴィチーニョの三人を走らせて最終ラインから一気に北九州ゴールへ迫る。しかし、今節においてはフィードの精度を欠くことが多く、選手の質的な問題からプレッシングを回避しきれない部分も相まって前進できない時間帯が続く。

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図3 DFラインの高さを利用した攻撃

 

守備の修正

 鳥取は北九州の降りる動きと裏抜けの動きの併用に対し試合中に守備の修正を図った。1-2列目間を放置するとこのスペースを北九州の2ボランチ村松、内藤)に自由に利用され、同様の展開からいつ失点しても不思議ではない。そこで、1-2列目間に侵入してボールを受ける北九州のボランチに対しては、遠いサイドのボランチが迎撃する方法に切り替えた。

 図4に示すように内藤にパスが渡る瞬間を狙いに定め、可児が村松へのパスラインを切りながら背後から接近する。これにより、スペースが広がる逆サイドへの展開を阻止すると共に前線へのフィードの余裕を与えない。その状況で前線から降りて受ける選手へ無理にパスを通すと今度は甲斐が迎撃。構造はシンプルだが、この修正によって北九州から見て左サイド攻撃を抑え込むことに成功する。

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図4 鳥取の守備の修正

鳥取の反撃と北九州の弱点

 後半序盤に弱点である2ボランチの脇からクロスを上げられ先制を許した鳥取であったが、60分を経過した頃から徐々にボールを保持できるようになる。前線からのプレッシングを敢行し続けたことによる体力的な問題と、1点リードという立場を考慮しリスク回避を選択した北九州の判断によるものだ。

 鳥取は後半に入ると図5に示すように、前線からのプレッシングを特に厳しく受けた可児が大外に開いて北九州の守備の基準点をずらしにかかる。また、ビルドアップ時に左右のCBが1列上がり厚みを確保。これにより前線での数的優位を確保すると同時に、サイドチェンジの距離が短縮され上松や魚里を利用したアイソレーションの形を容易に狙うことが可能となった。

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図5 基準点のずらしとCBの攻め上がり

 また、北九州は前線からのプレッシングを剥がされて前進されるとMFラインとDFラインが極端に下がる傾向があり、PA前のいわゆるバイタルエリアが暴露され続ける状態に陥ることが多い。鳥取はそのエリアを活用しゴールへ近づくが、肝心のフィニッシュの精度を欠きゴールを脅かすまでには至らない。

 

カウンターへの移行と伏線の回収

 75分を過ぎると、前線からのプレッシングが遂行不可となった北九州は自陣へ撤退しカウンターサッカーに完全移行。ボールを回収した後は図6に示すように左の大外に移動したダヴィへフィード。サイドで質的勝負を挑ませ、何度も鳥取ゴールに迫る。鳥取は触られたら最後のボールを全て掻き出し、ギリギリの状況を凌ぎ切る。

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図6 北九州のカウンター

 すると、最後の最後に鳥取歓喜の瞬間が訪れる。カウンターでリズムをつかみ北九州が再び優勢を築くかに見えた86分の出来事だった。

 北九州は序盤から図7のようにライン間へ位置する選手に対してアプローチに行く選手やそれに付随してカバーリングを実行する選手が曖昧になっており、組織的守備を苦手としていることは明らかだった。そこで、鳥取はこの整理されていない守備組織の穴を位置的優位と数的優位を築いて1点をもぎ取った。

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図7 鳥取が同点に追いついた場面

 可児に渡った時点で対応できる選手が野口しかいない、かつ大外にフェルナンジーニョが待ち構えているためこの時点で鳥取の攻撃は大成功。最後はファーサイドに走り込んだヴィチーニョが利き足ではない右足を振り抜き枠へ流し込んだ。

 同点後、絶対勝利が欲しい鳥取は勢いそのままに怒涛の攻めを見せるも逆転には至らず。試合終了を告げる笛がスタジアムに響き渡った。

 

雑感

 鳥取の視点に立つと、今節は鹿児島がお休みのため勝ち点3差に迫る絶好の機会。しかし現実は甘くなく、北九州にリードを許し辛くも引き分けに持ち込むことが精一杯だった。個人の質的要素で押してくるチームに対する耐性、対応力の欠如が浮き彫りとなった。

 一方で北九州は序盤から選手の質的優位を全面に押し出し、全体で見れば優勢に試合を進めていただけに引き分けという結果は悔しさが残ったに違いない。

 次の試合は熾烈なJ2昇格争いのライバル、ザスパクサツ群馬との対戦。須藤監督のコメントにも表現されている状況に合わせた戦い方を身に付け、試合巧者を目標として成長し続けたい。

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