ともの語り場

ガイナーレ鳥取の戦術分析を書き綴るノートです

2019明治安田生命J3リーグ第1節 Y.S.C.C.横浜vsガイナーレ鳥取【相手を観るということ】

はじめに

あけましておめでとうございます。今季も細々と分析していきますので何卒宜しくお願いします。

今年は趣向を変え、ですます調で記事を執筆していきます。また、前季同様諸事情で不定期に更新が途切れるかも知れませんがご容赦ください。

始めに両チームの監督について。今季、ガイナーレ鳥取 (鳥取) は高木理己新監督、Y.S.C.C.横浜 (YS横浜) はシュタルフ悠紀リヒャルト新監督をそれぞれ迎え入れました。

鳥取の高木監督は前年まで鳥取U-18を指揮され、同時期にJリーグのトップチームを率いる際に必要な資格、通称S級ライセンスを取得。そこに家庭の事情による須藤大輔前監督の退任が重なり、後を引き継ぐ形でトップチームの監督に就任しました。

対するYS横浜のシュタルフ監督は同クラブユースチームのOB。選手として海外クラブを中心に渡り歩いた後、指導者の道へ。そして今季、Jリーグ史上最年少の34歳でトップチームの監督としてYS横浜に復帰されました。

開幕直前に公開された紹介記事より、シュタルフ監督の中で指導法や戦術的なコンセプトがしっかり整理されている事が垣間見れます。また、鳥取を率いる高木監督とはS級コーチ養成講習会の同期とあって、個人的に特に楽しみにしていた対戦でした。

今回はポイント解説を中心にビルドアップと敵陣侵入後の狙いについてお話しします。

www.gainare.co.jpこ

 

ビルドアップの局面と課題

両チームのスタメンとフォーメーションは以下の通り。鳥取の基本フォーメーションは[3-1-4-2]、YS横浜の基本フォーメーションは[4-3-3]でした。

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鳥取は開始早々から攻撃時に大屋をトップ下へ配置した[3-4-1-2]へ陣形を変化させます。そして3CBと2CHの5枚でボールを前に運びたい様子でした。これに対し、YS横浜は3トップと2IHを当て、フォーメーションの噛み合わせそのままにマンマーク気味のプレッシングをかけます。プレッシング開始ラインはハーフウェイラインより少し高い位置に設定。DFラインを高く保って全体をコンパクトにし、YS横浜のWGは鳥取のWBへのパスコースを消すカバーシャドウの動きでボールを中央へ誘導します。

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狙い通りに鳥取2CH (可児、世瀬) へパスが入ったところで密集を作り猛プレス→ボール奪取→ショートカウンターという形を狙っていました。

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ただ、立ち上がりは守備時の動き出しが重なり合ってしまったりカバーシャドウの動きが甘かったりと連携が不足し、大外レーンで完全にフリーな状態の鳥取WBへボールが渡る場面がいくつか見られました。

鳥取YS横浜のハイライン背後のスペースへ、WBや時にはCBからロングフィード。最短距離でのゴールを目指します。

この狙いが功を奏し、開始直後に可児→福村→ヴィチーニョと繋いで早々に先制点を奪取。密集に追い込まれながらもフリーな福村へパスを供給した可児、高く設定されたYS横浜DFライン背後のスペースへフィードした福村、後ろから来るボールを完璧にコントロールし利き脚とは逆の右足でチームの今季初ゴールを決めたヴィチーニョ。全てが揃った得点でした。また、三沢の2点目も同様な狙いからでした。

しかし、時間が経過するに従い鳥取YS横浜のプレッシングに徐々にはまり始め、YS横浜の狙い通りの形からカウンターを受ける場面が増えてきました。

主な原因としては、第一に前述したフォーメーションの噛み合わせの関係上、鳥取のビルドアップ隊である3CB & 2CHがマンツーマンによる数的同数のプレッシングを諸に受けやすいこと。また、鳥取2CHである可児と世瀬が前進できない3CBからパスを貰いにボール保持者へ不用意に近づく動きがあったこと。この2つが考えられます。

前者に関しては、YS横浜のプレッシング強度が強く、連動したプレッシングがかかっている状態だとロングフィードを蹴る余裕を与えてくれません。そのため可変システムを採用して[2-3]の陣形に変形させたりYS横浜の3トップに対して4バック化するなど、相手の動向に合わせて数的優位を確保すれば比較的容易にボールを前進できたのではないかと感じます。

後者に関しては、不用意にボール保持者へ近寄ると寄った本人はボール保持者の味方へのサポートと感じていても、寄った選手をマークしている相手選手も引き連れてしまうため、ボール保持者およびボール周辺の展開するスペースが失われます。WBの福村や魚里が浮いたポジションに配置されているのですが、以上の理由からフリーな状態でパスを供給できた局面は少なかったように感じます。

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また、可児や世瀬がYS横浜のCF-WG間へポジションを取る時間帯が多かったのですが、5人がほぼ同じ高さの列に並ぶ5対3となる局面もありました。このような後方での過度な数的優位や接近しすぎることによるスペースや時間の消失、それに伴う前線の人数不足が生じていました。

J2徳島ヴォルティスを率いるリカルド監督の言葉を借りるならば、鳥取は以下のような目的を掛け違う状況に陥っていた印象を受けました。

徳島ヴォルティス オフィシャルサイト

ビルドアップはボールを動かすこと自体が目的ではなく、崩しながらチャンスを広げていくためのものなので、そこのところの整理はしていく必要があります。

(2019J2第2節 徳島vs岐阜 質疑応答より)

加えて前者の状況もあり、CHへボールを当てても密集を作られ、前を向かせてもらえずに押し返される時間が続きます。

それでも、前半終了時にはYS横浜2-3鳥取と多くの得点が入る試合展開となりました。

 

守備システムと突破口

後半立ち上がりは鳥取が守勢に回る展開となります。大屋のポジションを降ろし、[5-3-2]の陣形にセット。これに対してYS横浜のビルドアップは2CBが開いて幅を取り、時折GKも参加させることで最終ラインで数的優位を確保します。そしてSBを基点に攻撃を組み立てます。

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鳥取はこの状況下、YS横浜のSBへパスが渡る瞬間WBが寄せて4バック化する形と、CHの可児と世瀬がSBにプレッシングをかけることで侵入を阻止する形を狙いました。

前者の守備は比較的機能していましたが、CHがスライドする後者の守備ではMFラインの3人のスライドが遅れることで中央に一瞬のスペースが生じ、あらかじめポジションを取っていたYS横浜のIH (宮尾、吉田) が浮きます。そこを第2の基点として鳥取の自陣に侵入される局面が目立ちました。また、YS横浜のIHが可児や世瀬の背後に隠れて浮くアンカー脇のポジションを取る局面も見られ、状況に応じた適切な配置、状況判断を仕込まれているのがわかります。

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さて、守備がはまり鳥取のターンについて少し触れると、前半同様にビルドアップの問題を抱えていました。ボールを保持していてもいまいち攻撃が上手くいっていない印象だった理由は前述した通りです。それでも時間が経過に伴いYS横浜の陣形が間延びしたことで、先制点のときと同様に可児や世瀬へのマークが甘くなり前進できる局面が増えました。

チャンスになったシーンではトップ下の大屋が大外レーンに流れ、世瀬とワンツーの形からハーフスペースへ前向きに侵入。サイドで鳥取のCH & WB対YS横浜のSBの2対1の局面を作り出していました。同様な狙いは逆サイドにおいても見られ、終盤にかけても狙い続けていました。

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そして終盤はカウンターの応戦模様。ATに芸術的なフリーキックを沈められると同時に主審の笛が鳴るも、ヴィチ、三沢、可児の合計4ゴールで競り勝ちました。

 

まとめ

最終的にはYS横浜 3-4 鳥取と撃ち合いの様相でしたが、両者は対照的なチームに映りました。今節のポイントは相手を観ているか否か、です。

鳥取はセットオフェンスにおいて試合終了までビルドアップの問題を抱え続けていました。開幕戦だったので事前のスカウティングは難しくとも、相手の動向を観察し試合中に戦い方を修正する力が昨年より劣っているのは否めません。

昨季は例えば2CHの可児を大外レーンに開かせビルドアップの出口に利用し、一方の仙石に浮いたポジションを取らせる、といった策が用意されていました。しかしながら高木監督が率いた開幕戦では昨年見られなかったビルドアップの問題が最後まで放置され続けていたので、今後のリーグ戦に少し不安を残す内容となりました。

一方のYS横浜は、序盤からボール奪取からのショートカウンター、セットオフェンスではビルドアップやサイド攻撃、選手の配置などのメカニズムが明確で再現性あるプレーを見せていました。ただ、パスが大きくずれたりトラップが大きくなるなどのミスから鳥取にボールを奪取される場面が散見され、その度にカウンターを受けていたので選手の質が追い付いていない印象を受けました。個の質の部分に関しては急激に伸びるものではありませんが、選手の質さえ伴ってくればJ3で飛躍できるポテンシャルを持っているチームだと感じます。

次節は3月17日(日)13時キックオフ、ホームのとりぎんバードスタジアムギラヴァンツ北九州と対戦します。今節で浮き彫りとなった課題を改善していけるか温かく見守っていくと同時に、とりスタでチームを後押ししていきましょう!

www.jsgoal.jp

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